6. 訊問
なんだかよくわからない駅長 のアナウンスにもかかわらず、区内の高校に通う男子生徒が、なんだかよくわからないけど熱弁に感動しましたと言って、クラスメイト3人を引き連れて学校の帰りに駅長室を訪ねた。
駅長は思わず目頭を熱くして、抱きしめんばかりに彼らを迎え入れた。
「ありがとうありがとう。君らのような若い人たちの力が事件捜査には必要なんだ。よく来てくれた!」
その高校生も胸が熱くなって、言葉につまりながら言った。
「子供のころから使ってるこの駅のために働くことができて嬉しいっす。ぼくらなんでもします。なあ、みんな!」
「……まあ」
「いちおうは」
「5時くらいまでなら」
リーダー格の高校生は、頬を紅潮させて駅長に聞いた。
「何から始めたらいいですか?」
「……」
高校生と見つめ合ったまま駅長は口ごもった。
衝動にかられて協力者を募ったものの、捜査の段取りをまったくつけていなかったことに気がついたのだ。
「そうだね。ええと。おい助役、何かしてもらうことあるか?」
「いまのところはまだ……」
今度はホームにいる職員 に尋ねた。
「高校生が捜査に協力したいって来てるんだけど、なんかすることあるか?」
「もう来たんですか? 困ったなぁ。とくにないなぁ」
「ホームの清掃とか」
「それならありますけど捜査とは関係ないでしょ」
「それでいいよ、とりあえず」
箒を持たされた高校生たちは、なんだかよくわからないけど、とにかくホームを掃いた。
協力者が現れて意気込んだ駅長は、さっそく捜査計画を立てようとしたが、どういうわけか計画が思いつかない。何をどうしたらいいのかまったく浮かんでこない。七転してさらに八倒しても何も思いつかない。
ひょっとして自分は馬鹿なのか、それとも事件の捜査に向いていないのか、いっそこの件から手を引いた方がいいのか、悩みぬいた挙げ句、恥を忍んで助役に相談した。
「計画が立たないのは、情報がないからじゃないんですか?」
「あ、なるほど!」
たしかに、犯行場所と時刻、それに凶器は刀剣類らしいこと、犯人は侍らしいこと、それ以外に情報らしいものが何もなかったことに駅長は気がついた。
「どうすれば情報が集まるんだろう? 駅の周辺に、情報求む、の張り紙でもするか」
「犯行現場が駅の構内なんですから、まず職員に聞いてみたらどうでしょう」
「そう、そのとおり! 現場周辺にいた者から話を聴く。それが捜査の第一歩だよ、君!」
【久米小路駅職員に一問一答】
――(第一発見者の職員 に)どんな様子でしたか?
はい。最終電車のアナウンスがあったのに、まだベンチで寝ている男性のお客さんがいたので、起こそうとしたら顔中血だらけなんです。びっくりして、大丈夫ですか? って聞いたんですけど返事がないんです。でも最終が出るから起こさなきゃと思って、ゆすったり顔を殴ったりお腹を踏んづけたり罵倒したりしたんですけど起きないんです。ひょっとしてと思って口に耳をあてると呼吸してないんです。
――(殺害される直前の被害者を見たという職員 に)犯人の姿は目撃しなかったんですか?
見ませんでしたね。お客さんはあっち側を向いてベンチに座ってました。ずいぶん酔ってたみたいで、なにかぶつぶつしゃべってましたけど相手はいませんでした。すると、急にベンチに倒れこんだんです。そのときは、眠くなってベンチに寝転んだように見えたんで、しょうがないなと思いながら放っておいたんです。いま思うと、あれが殺害の瞬間だったんですね。
――(司法解剖をした検視係の職員 に)死因が明らかなのに解剖の必要があったのですか?
それはわかってたんですけど、ちょっと興味があったもんで、つい。……すいませんです。これからは気をつけるますです。
「なんだ、これだけじゃ役に立たんな。鉄道員たるものが情けない。古いイタリア映画で『鉄道員』ってのがあるんだけど知ってるか? 私はね、あの映画を見て鉄道員になろうと決心したんだ。冒頭のシーンで、自慢の父親を駅まで迎えにいく末っ子のサンドロの誇らしげな姿がいじらしかった。そうだ、サンドロは私だったんだなぁ……」
「はいはいそうですか。とりあえずフェイスブックを利用しましょう」
ソーシャルメディアに詳しい助役はさっそくフェイスブックで、今回の事件を公表するページを開設して、情報を集めることにした。